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慈光通信 第175号

2011.10.1

すべての患者に聞いた食生活の傾向から  5

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は日本有機農業研究会主催第四回全国有機農業大会における梁瀬義亮前理事長の講演録です。】

 

 

恐ろしい農薬の害

 

患者の食事に一回一回注意するということで出てきた副産物は、森永の砒素ミルクを早く発見させていただくことができたことです。私の町の子どもさん達にかなりその害を防がせていただくことが出来ました。大人ばかりでなく子どもにも全部食べ物を注意しておりました。
先程松村先生が仰せくださいましたように、昭和31年の末頃からわけのわからない患者、肝炎だかノイローゼだか、原因不明の患者が出てまいりました。
最初、肝炎だと私の地方では言われて、流行性肝炎が流行っていると言われました。しかし、じっと見ておりますと、どうもおかしい。森永の砒素ミルクの患者とよく症状が似ておる。これは何か毒物だと思いましてそれを探してみました。そして残留農薬ということに気付かせていただいたのが昭和34年でございます。
それ以前、昭和27年に調査が終わったその年の秋に、私は農作物がその作り方によって、内容が変わってくるということに気がついたのでございます。
化学肥料で作った農作物は味が悪くて香りがなくて腐りやすい、それに対して堆肥で作った農作物は味がよくて香りがよくて、そして日持ちが大変よろしい、ということに気がつきました。それから私は実は農学に志したのであります。
患者さんに野菜を食べさせるだけでなく、どの様な野菜が必要なのか知らなくてはいけないと思って農学の勉強をはじめたのでございます。その時に知ったことは、現在の農法はたくさんとるということだけを考えて、農産物本来の使命の健康や生命に対する意義ということについては、全く等閑に付されているということに気づきました。そしてその研究方法も、専ら分析と単純条件下における実験の寄せ集めという方法がとられていることは、先程医学のことで申し上げた同じような、工学的発想と工学的方法がこの農学の世界に侵入しておる、ここに「生命」ということが抜けておるということでございます。
私はそれから農学の研究を始めるのに、近代農法の勉強と共に、ともかく歩き回って、聞いてみてまわるという方法をとりました。片っ端から農家を尋ね歩きまわって色々なことを聞き、そして実際にその畑なり田なり果樹園なりを見て、見て、見まくるという、ともかく見るんだ、そしてそこから何かの法則を見出してくる、ということをやったのです。
ここに昭和49年に私が過去の間において、私の周りに出来た健康グループが、先程申したような食事パターンであるとか、運動であるとか、皮膚の鍛錬であるとかいう様な健康法を実施してくださり、どれほど私のところへ来る回数が減ったかという、27家庭の統計がございます。これは家族は5人に計算しなおしてあり、それからいろいろ他の病気がでますから、3歳以下、60歳以上は抜けております。それから今まであるところの慢性疾患も抜いてあります。ともかく生活を変えたらどの様に変わるかという、荒っぽい大ざっぱなものでありますけれど、この方々は全部必ず私のところに来てくださる方で、私がホームドクトルのような型をなしているものであります。
この統計では、健康法実施前、一年間に羅病回数が8.7回、私の所へ5人の家族がどなたかが1カ月半に1回来院されていたのが、実施後1年間では5.2回、2年で3.7回、3年で2.9回、4年で3.2回、5年で2.7回、と確実に減ってきております。大体3年やりますと、病気の回数が3分の1になるということでございます。回数だけではなく、重さもこの場合減るということが大体わかっております。熱心にやればもっと減ると考えております。
以前、戦争でマラリヤやらアメーバーにやられて、随分体が弱くて、戦後にはレントゲンにやられて体が弱って、病気ばかりしていた私が、健康法をやりまして、過去15・6年一度も病気をしたことがありません。お陰様でこんな弱虫でも健康に気をつけると病気をしないということがわかります。
それから、私は本当に疲れないんです。これは有難いと思っております。以前は疲れて仕方がなかったのです。私のような弱虫が、町ではタフだといって評判になるくらいに疲れないんですよ。皆さんのような丈夫な方は、もっといいだろうと思うんです。
まあそんなことで、話は戻りまして、慢性中毒のことを見つけまして、そして農薬による慢性中毒に関する所見をパンフレットにして出させていただきました。そして健康な栄養の多い農作物を求めてきたのですが、昭和34年から更にそれに加えて完全な無農薬農法を求めてきたのでございます。
(以下、次号に続く)

 

 

保存食のお話し

 

3月の東北大震災、9月の立て続けにやってきた台風による被害、大自然の脅威に日本列島が大きく揺れました。
被災されました方々には心よりお見舞い申し上げますと共に一日も早い復興をお祈り申し上げます。
当会でも、過日の台風の災害時に、会員の皆様からご心配のお電話やお便りを多数お寄せいただきまして、厚く御礼申し上げます。新聞やテレビでご存じのとおり、五條市の南の方は大変な被害に遭いました。
幸いにも私共の所は水害などの大きな被害は免れたものの、長年育てた協力農家の大きな栗の木が折れてしまったり、種まきをして可愛い芽を出していた畑や収穫寸前の野菜が大雨や風でなぎ倒されるなどの被害に遭いました。今までにない規模の台風や日照り、寒波と、近年の異常気象により、年々農作物が栽培しにくくなってきているようです。手間暇かけて栽培して下さった作物が、どうか無事収穫できますようにと祈る思いです。
先日、山口さんから早生リンゴの「つがる」が送られてきました。今年の実は特に甘く、早々に売れてしまいましたが、残念なことに次に続くフジはやはりこの気象が影響し、不作です。幸いにも、他品種は平年並みの作柄ですので、次回のジョナゴールドを楽しみにお待ちください。果物の中でもリンゴは、初めて箱を開けた瞬間、真っ赤でつやつやした実が並んでいる様子が何とも言えない可愛さです。
慈光会の作物は、自然栽培のためその季節の旬のものだけを扱っています。そのためスーパーのように、年中自由に好きな野菜を選んで買う、ということはできません。だからこそ、旬の果物や野菜が農家から出荷された時にその作物を通して季節を感じる、季節を味わう、次の年までの保存食を作る、などの楽しみ方が出来ます。
今、慈光会には、さつま芋や栗、リンゴや梨、青いレモン、きのこ、もうしばらくするとみかん、新生姜など秋の味覚が続々と入荷します。そんな果物や野菜を使って、手作りのお菓子や保存食を作ってみてはいかがでしょうか。手間暇はかかりますが、出来上がった時の喜びは格別です。

 

 

リンゴを使って
リンゴジャムに
皮をむいたリンゴを適当な大きさに切り、砂糖を振りかけしばらくおきます。リンゴの水分で砂糖が少し湿ったら蓋をして、初めは弱火で焦がさないよう気をつけながら煮ます。水分がたくさん出てきてリンゴがしんなりしてきたら蓋をとって中火で煮ます。煮汁がなくなるまで煮詰め、最後にレモン汁を混ぜて出来上がり。砂糖の分量は少量から味見しながら足していきます。固さは冷めると少し固くなります。保存は瓶に入れて煮沸消毒又は、袋や容器に詰めて冷凍保存で。

 

 

パイやパンのフィリング用に
りんごはくし形に切って、形がくずれない位にジャムと同様に煮ます。冷凍しておくといつでも好きな時にパンやお菓子が焼けます。

 

 

りんご酢に
りんごをよく洗い、水気を拭き取って皮のままスライスし、お好みの酢・砂糖に漬け込みます。出来上がったりんご酢は、寿司酢や酢のもの、ピクルスなどにも使えます。疲れた時に水で薄めて飲むと疲労回復や二日酔い、高血圧や食中毒の予防にも効果があります。毎日少しずつ飲むと、暑い夏も乗り切ることが出来ます。

 

 

栗を使って
栗は、熱湯で1・2分位茹でると皮が柔らかくなり、むきやすくなります。熱いうちにむくとむき易いのですが、やけどに気をつけて下さい。冷めたらもう一度温めて使います。

 

 

栗の渋皮煮に
栗は、渋皮を傷つけないように鬼皮だけをむきます。栗が隠れるくらいの水を入れ水から煮ます。沸騰したら弱火にして15分煮て、ふたをしたまま冷まします。冷めたら栗を流水でそっと優しく傷つけないように洗います。また水から栗を煮て、これを3回繰り返します。
栗がつるんときれいになったら栗が隠れるくらいの水を入れ砂糖をいれて煮ます。沸騰したら弱火で20から30分。火を止めて、冷めるまで置いて味をしみ込ませます。
煮汁のままパックに入れて冷凍、または瓶詰して煮沸消毒して保存します。
少々手間と時間がかかりますが、そのままおやつに、お菓子作りに、お正月のおせち調理の一品としても重宝します。

 

 

栗の甘露煮に
栗の鬼皮と渋皮をむき、2・3分茹でこぼしてあく抜きをします。砂糖と水を入れて火にかけ、15分位弱火で煮ます。煮汁のまま冷ましてから冷凍保存に。クチナシの実があれば、色がきれいに仕上がります。
そのままいただいても美味、栗きんとんやモンブラン等にも利用できます。くずれてしまったものはペースト状にして冷凍しておいても便利です。

 

 

茹で栗を冷凍に
栗を茹でてそのまま冷凍しておくと、解凍して半分に切ってそのままいただくことが出来ます。

 

 

新生姜を使って◇
紅しょうがに

 

 

生姜の醤油漬けに
皮をこそげ、スライスした生姜をヒタヒタの醤油に漬け込みます。一晩おくといただけます。お弁当やご飯のお共に。

 

 

生姜のはちみつ漬けに
スライスした生姜をはちみつに漬け込みます。
生姜は体の新陳代謝を活発にし、保温効果もよく、風邪・腹痛・下痢をはじめ、冷え性や夜尿症の予防にも効果があります。

 

 

その他、ニンニクは皮をむいて、生姜は皮つきできれいに洗って袋に入れて冷凍しておくと年中使えます。使用する時は凍ったまますりおろしたり、きざんで使います。また、生姜はすりおろして、ラップに広げて板のようにして冷凍しておくと、必要な分を割って使えるので便利です。

 

 

慈光会の職員は、それぞれの家庭で、この季節に1年分のジャムや他の保存食を作り、次の年まで頂けるようにと冷凍庫をいっぱいにしておきます。手間はかかりますが、食卓は年中潤っています。
ここでは簡単なものを書かせていただきましたが、その他にもインターネットで検索したり、保存食の本を開くといろいろなレシピがあります。レシピは販売所にも置いてあります。この秋、ご家庭で手作りを楽しまれてはいかがでしょうか。

 

 

 

農場便り 10月

 

十六夜の優しい光が部屋の奥深くまで明るく照らす。大きく開いた窓から夜空を仰ぐ。まん丸お月さまが明るく光を放ち、その光は弱く輝く多くの星を飲み込んでしまう。月の光は、庭の片隅に咲く萩の小さな白い花を映し出す。
厳しい残暑の中、時は夏から秋へとゆっくり移り変わる。黄金色に色づいた水田には、無数の蜘蛛が細い糸を張り巡らせ、蜘蛛の糸が朝露にしっとり濡れ、朝日に輝く。自然の造形美である。今年も稲穂はたわわに実り、重そうに首を垂れる。中には長雨と穂の重さに耐えかね、絨毯を敷いたように倒伏してしまった田も目に入る。早場米は9月から刈り始め、以後10月末まで種類に応じて順次刈り取られていく。刈り取られた田からは独特の土の香りが風に乗って運ばれてくる。翌日にはすずめが群を成して飛来し、こぼれ米を探ししきりについばむ。時折、何かの音に驚き、鳴き声を残して一斉に秋空へ飛び立つ。
今回はみずほの国、太古より日本人の命の源である米についてお話しさせていただく。
稲作は、焼畑では12000年前、水田では6000年前から栽培が行われ、揚子江下流から台湾→琉球→九州南部→日本全土へと縄文時代中期に中国から伝わった。現在の日本の米の自給率は、1966年には100%になり、それ以後高い自給率を維持している。米の種類は、我国で栽培されている短粒ジャポニカ米、長粒のインディカ米、大粒のジャバニカ米に分かれる。
当会の協力農家の栽培法は、大寒に病害虫や雑草種を軽減し土地を肥やす(寒起こし)を手始めに行い、春先に完熟堆肥を一反当たり2トンを目安に全面に播く。そして春に本起こし、代掻き、田植えと作業を進める。肥料は、完熟堆肥を中心に補助用肥料として油かす、米ぬかなどを用いる。土地により肥沃度が違うため、各水田それぞれに施肥量は違う。田植え後は深水にすることにより雑草を抑制する。その後、機械と手取りで除草を行い、若苗を雑草から守る。梅雨後夏の日射しを浴び、大自然の中で健康にすくすく育つ。稲は温帯モンスーン地帯の日本において最も合う作物の一つである。
栄養価も高く、米100g(ご飯にして茶碗2杯分)で356kカロリー、糖質は80%、デンプン、特にタンパク質の質は特に高く、植物中最も良質とされる。また、日本の伝統食の米・大豆・魚と合わせると理想的な相乗効果が生まれる。他にB1・B2・ナイアシン等のE群も含まれ、食物繊維も多く含まれる。しかし、玄米のまま食べず精米し上白にすれば、食物繊維やその他の栄養価は下がってしまう。前理事長は生前、五分から七分搗きをお勧めしていた。現在、地球上では9億トンもの量が栽培され、主食として世界で一番多く食されている米は、多くの民の生命の源になっている。昔から米は国を支え、民を守ってきた。だからこそ「米一粒一粒に神様が宿り、粗末にすると罰が当たる」と教えられ、大切に、大切に食べられてきた。天地の神が授けてくれた米を有難く戴き、現代社会において軽視される米作りを国民で盛り上げ、守らなければならない。しかし現在、市販される米は化学米といえる。肥料は化学肥料、雑草には除草剤、害虫には農薬と、薬漬け栽培である。生命の糧として戴く米を、生命を無視した方法で作る。国産米のすべてが有機栽培になることを心より願う。
秋は時に人を詩人にする。目に映る風景だけがそうするのではなく、秋の風が運ぶ全てが五感を通して体に入り、そして心を美しい世界へと導いてくれる。
「全てのもには生命があり、そのものの生命を見、表現するのが私の仕事である」師である花野五壤画伯がよく言っておられた。画人の宗教的哲学である。
農場では色々な秋の虫の声が賑やかだ。美しいコロラチュールソプラノのような鳴き声や雑音のような羽音。その全てを大自然は美しいハーモニーに変え、私達の耳を楽しませてくれる。小さな入れ物で飼うに忍びなく、幾度となく庭に放した鈴虫。秋には美しい羽音をと期待するも、いつも天敵であるアリに負け、寂しい秋を送ってきた。秋の夕暮れ、農場の畑の隅の草むらの中から小さな鈴虫の羽音が聞こえた。37年間毎日通う中での、初めてのことである。聞きなれたはずである鈴虫の羽音も、自然の中から聞こえる音は、飼育されているものとは違う。かぼそくも生命力に満ちた羽音に心の底から感動し、疲れた体は癒される。息をこらし、時を忘れ、美しい鈴虫の声に耳を傾けると、日々の雑踏と雑念がうそのように消え去った秋の夕暮れであった。

 

 

声はガチャガチャ クツワムシの農場作業員より