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慈光通信 第163号

2009.10.1

食物と健康と農法 2

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、昭和53年(1978年)4月15日 くらしの研究会主催 寝屋川市で行われた梁瀬義亮前理事長の講演録です。】

 

 

日本人の体力は世界最低

 

 

もう一つ心配なことは、体力が極めて低下しまして、国際的に調査すると日本人が世界で一番弱い体力を持っていることが分かっています。
今から八十年ばかり前、日露戦争当時はおそらく世界最強だったといわれているし思われていたのです。
現に明治初年にやってこられたドイツの医学者ベルツ博士が、東京大学の講師をしながら日本人の体をずい分くわしくお調べになった。この方が残されたベルツ日記というのがありますが、それには「恐るべき民族だ。こんな強い気力と体力の民族はまずないだろう。いずれ世界に雄飛する民族だろう。」といわれています。
それ程強かった日本人が、わずか七、80年の間に世界最低になってしまったのには大きな理由があるはずです。

 

 

奇形はふえている

 

 

それからもっと恐ろしいのは水俣病、これが起こる前に猫がたくさん苦しんだということをご存じでしょう。カネミ油症の事件、これは大変でした。あれにやられた方はおそらく一生廃人でしょう。廃人という言葉は悪いけれど、ずい分ひどいダメージを受けます。というのは体から出ないのです。そして神経系統や造血系統などに悪い作用を及ぼすのですからたまりません。お気の毒なことです。
このカネミ油症事件の起こる前にニワトリが10万羽以上死んでいる。これは何かあるのではないかといった人がいるそうです。
ところが今、人間の食物を食べている日本猿がどんどん奇形になっている。大分県の高崎山、広島県の厳島、岡山県の高梁の臥牛山、淡路島のふくらの公園、長野県の湯田中の猿、こういったように全国で絵付けに成功した野生の猿が、人間の食物を食べるとひどい奇形が出てくるんです。手のない猿が多いのです。
長野県の湯田中を例にとりますと、昭和38年に80頭の猿が餌付けに成功しました。1日に2回、麦と豆をもらっている。すると48年になると生まれてくる猿の半分が奇形になってしまった。人間の食物を食べると奇形になる。それで高崎山や臥牛山出は、猿に食物をやらないで下さいと看板が立っているそうです。それは猿が奇形になると困りますからということなんでしょうが、人間はどうでもいいということなんでしょうかね。これと同じことがきっと人間に出てくる。恐ろしいことです。
奇形の発表は厚生省からは出ないのです。というのは、皆、隠してしまったりするものですから、なかなか統計がとれないのです。けれども東京のある産婦人科の先生が発表されたところによりますと、昭和25年には流産児の0.8パーセントが奇形、これが50年になりますと8.8パーセントが奇形で11倍という数字を出しておられます。人工流産児は15パーセントが奇形ということです。

 

 

病気は生活の反省のチャンス

 

 

大変な医学の発達があるにもかかわらず、日本人の生命力が低下している。これは実は当然のことなのです。私は昭和23年に兵庫県の県立病院に勤めさせていただいている時にこのことに気づいたのです。
皆さんはお医者さんを頼りにしておられるが、はっきり申して今の医学というのは救急処置としてはいいですよ。けれどもそれに頼って健康な生活を送ろうと思って頼ってると逆に病気にされてしまう。こういう性質を持っています。
消防車は消防車を整備するとともに、皆さんに火の用心を訴えられるでしょう。火事という現象をとらえますと消防車が必要です。しかしながら火事の下、火元は火の用心がもとになります。だから消防車は消防車と同時に火の用心を働きかけるわけです。
ところが今の医学では火事に匹敵する病気を、病気という時点だけでいろいろ研究しています。病気が生活からでてきているということを忘れているわけなんです。
(以下、次号に続く)

 

身近なお肉にも危険がいっぱい

 

 

最近、成型肉を使ったステーキの食中毒が話題になりました。安価なステーキハウスの看板メニューには「霜降り加工」「やわらか加工」という表示があるだけで、消費者は、見ただけでは普通のお肉との違いが分かりません。スーパーのお買い得品のコーナーにも安くて美味しそうな霜降り加工のステーキが並んでおり、思わず買ってしまいたくなります。
今回の事件ではまず、「成型肉の加工で雑菌が入り、食べる時に加熱が不十分だったため、菌が死滅せずに起きた食中毒」であることが伝えられ、「成型肉は中までよく火を通してから食べればよい。」という対処法が情報として与えられました。しかし、そもそも『成型肉』と何か、という根本的な情報はほとんどありません。『成型肉』とは一体どんなものなのでしょうか。そして、人間が口にして危険はないのでしょうか。
成型肉はまず、内臓肉や脂身をかき集めた『端肉』に牛脂などをまぜ、酵素結着剤を加えます。それを瞬間凍結させ結着、その後カットしたものです。最近では、この成型肉に代わって、人工霜降り肉というものが出回りつつあります。これは、筋を取り除いた赤身肉がコンベアで運ばれ針山の下で止まります。すると100本近くの針が一斉に赤身肉に刺さり、コンデンスミルク状に乳化された牛脂が打ち込まれます。3分後、肉はピンク色に変わり洗浄され、これを成型し冷凍庫で寝かすと水分は肉中に、脂はサシとなって残るのです。この工程により、パサパサの肉は適度な脂を含み、水分で分量も増えます。最新技術を使えば1kgのお肉を2.2kgにすることも可能です。
このように、一見おいしそうに見える成型肉にはたくさんの添加物が入っています。中まで火を通し、雑菌を熱処理するだけではただ衛生面で安全なのであって、決して成型肉が安全であるは言えないのです。こういった肉は、サンドイッチやコンビニのお弁当、冷凍食品などにも使われています。また、この『端肉』が驚くことに、『ミートボール』というヒット商品になった、と「食品の裏側」の作者・安部 司氏は著書の中で書いておられます。(以下、「食品の裏側」より抜粋)

 

 

そのミートボールはスーパーの特売用商品として、あるメーカーから依頼されて開発したものでした。端肉というのは、牛の骨から削り取る、肉とも言えない部分。現在ではペットフードに利用されているものです。その端肉に安い廃鶏(卵を産まなくなった鶏)のミンチ肉を加え、「組織状大豆たんぱく」というものを加えます。しかしこのままでは味がありませんから、「ビーフエキス」「化学調味料」などを大量に使用して味をつけます。歯ざわりを滑らかするにために「ラード」や「加工でんぷん」も投入。さらに「結着剤」「乳化剤」も入れます。これに色を良くするために「着色料」、保存性を上げるために「保存料」「pH調整剤」、色あせを防ぐために「酸化防止剤」も使用。これにソースとケチャップを絡ませれば出来上がりですが、コストを抑えるために、まず氷酢酸を薄め、カラメルで黒くします。それに「化学調味料」を加えて「ソースもどき」を作るのです。ケチャップの方は、トマトペーストに「着色料」で色をつけ、「酸味料」を加え、「増粘多糖類」でとろみをつけ、「ケチャップもどき」を作り上げます。このソースをミートボールにからめて真空パックに詰め、加熱殺菌すれば完成です。添加物は、種類にして20から30種類は使っているでしょう。もはや「添加物のかたまり」と言っていいぐらいのものです。

 

 

この阿部氏の記事を読んでもまだ、「安くてお手軽な商品だから」と買う勇気はおありでしょうか?子供が大好きなミートボール、お弁当にも大活躍ですね。そんな日常よく口にする食品にこんなにたくさんの添加物が使用されているのです。もちろん、これはミートボールに限った事ではありません。外食をしてもこんな危険はいっぱいです。商品の表示を自分の目でよく確かめて、安全な食品を選ぶことが大切です。

 

 

農場便り 10月

 

秋の心地よい風が夏の農作業の疲れを癒す。黄色く実った稲穂は重く、弓なりに垂れ下がる。農道に沿って続く電線には、まもなく南の国に旅立つツバメの群れが羽を休め、今年生まれて巣立った若鳥に旅の手引を伝える。秋の夜長を楽しむコオロギは、秋冬作業のために畑を起こすトラクターのエンジン音に驚き、畑の外へと飛び出して行く。そうしてまもなくやって来る寒さに耐えることなく死を迎えるのだろう、と気の毒に思うが、これもまた仕方がないことと作業を進める。
秋冬用にと直営農場では次のような作物を育てている。通年栽培を目標にしているキャベツ、寒さで甘みが増すブロッコリー、他の野菜を寄せ付けないくらい大きな葉のカリフラワー、大地に太い根を下ろす大根や細めのゴボウ、サラダ用の水菜とサンチュ、定番の小松菜、そして好みが大きく分かれるセロリ、お正月のおせちに欠かせない金時人参、冬越しで来春収穫するニンニク、そして冬野菜の横綱、どっしりした白菜などである。植え付けが高湿期のため、水分管理や虫の食害に注意し、絶えることなく芽を出す雑草に頭を抱えながら作業を進める。中でも一番の大飯喰らいは白菜で、生育途中に肥料切れを起こすと、いつまで経っても結球せず、青菜のままで終わってしまう。大根は、元肥に堆肥を多く入れ込むと根が強くなり、強くなった根はあちこちに伸び、その強くたくましく育った大根を、渾身の力をこめて大地より引き抜くと前衛芸術作品のような姿を現す。肥料(堆肥)は各作物の特長を見極め、量を調整しながら栽培していく。以前にも白菜の起源や栄養価などについて書いたが、もう少し書き足たせていただく。
白菜の栽培は、年2回、春作と秋冬作があり、直営農場では秋冬作を行っている。8月下旬より128個の穴が開いたトレイに一粒ずつ種子を落とし、強い日差しから苗を守るため、寒冷紗の下で25日間、苗を仕立てる。これは、25日を越えると日増しに老け込み、植え付け後の生育が良くないためである。鉄は熱いうちに打ち、白菜は若いうちに土へ植え替える。畝幅120?、株間30?40?で一株ずつ植え込んでいく。赤ちゃんを扱うようにやさしく土を寄せ、仕上げに両掌で根元を軽く抑え、その後たっぷり水を与える。しかし、白菜は水分過多の地を嫌うため、畝は高畝とし、大雨による浸水から守る。また土中の通気性を良くし、根の張りを促すことが大切である。この作物は病害虫に弱く、初期生育期(高温期)には細心の注意が必要である。まだ暑さが残る時期に大量に追肥を行えば、たちまち害虫や病気の餌食となってしまい、また自然からの猛威(台風や長雨)など、天候にも左右される。
8月中旬より逐次定植する苗は、まずコオロギ、オンメバッタ、土中にじっと潜む根切虫などの洗礼を受ける。食害にあった所は準備しておいた補植用の苗で補う。9月、夏の空気から秋の空気へと変わる。白菜は一気に生育を早め、日増しに外葉の面積が大きくなっていく。9月下旬、気温と作物の顔を窺いながら油粕などの追肥を行う。これまでに除草は逐次行う。10月には外葉はより大きくなり、畝いっぱいに広がり、土が見えなくなる。気候も安定し、心地よい秋風と秋の陽に外葉はスイングする。9月下旬、早生種の白菜の中心部が立ち気味になる。同時に外葉も首を持ち上げ、結球が始まる。その頃にもう一度、軽く追肥を行う。早生種は11月上・中旬には初出荷となる。晩生種は冬囲い用の布の下で休眠し、来春 3月上旬まで収穫は続く。後は大自然の神様に手を合せ、日々精進し見守っていく。白菜は、体内の過剰摂取された塩分を体外に出す力があり、日頃濃い味付けを好む私には、冬の季節になくてはならない作物である。
白菜は一般市場では年中出回っている。出来るだけ早い時期から食卓へお届けできるようにと、無理をして作付けするが、早ければ早いほどそのリスクは高くなる。12月からの収穫は生育期の天候も安定し栽培が容易となるが、白菜の完全無農薬栽培は、全国でもほとんど行われていないのが現状である。一般市場で無農薬栽培として売られる白菜の中にもかなりいかがわしい物が横行している。朝採りや朝市、安価な野菜や果物の直売などを売りにしているもののほとんどは、一般のスーパーの商品と変わりなく、農薬や化学肥料で育てられたものであるということを認識していただきたい。
秋の夕暮れ、畑の隅で寂しくコオロギが鳴く。盛夏には生命力豊かに繁茂したきゅうりやゴーヤのつるが、力なく垂れ下がり、その姿は見る影もなく、今まさに命尽きようとしている。夏バテを吹き飛ばしてくれたこれらの果菜に感謝する。夕日が落ちる頃には冷たい風がオレンジ色に染まったススキの穂を撫で吹き抜けていく。
10月3日は中秋の名月、テーブルに農場で採ったススキの穂と萩の枝、月見だんごをお供えする。幼少のころの母との思い出がよみがえる。秋の恵みを心ゆくまで堪能し至福の時を過ごす。翌日の夜、窓を開け仰いだ澄み渡る夜空には、十六夜(いざよい)の月がやさしい光を放つ。すべての人に、大自然の草木にもやさしい光は平等に降り注ぐ。母なる月、じっと見つめる先には平和な地球が映っているのであろうか。

 

 

 

花より団子 月より団子の農場より