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慈光通信 第178号

2012.4.1

病気のないすこやかな生活 ― 医・食・住 ― 1

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1982年(昭和57年)3月6日 熊本県立図書館ホールでの講演録です。】

 

 

医療を考える

 

 

現在、医学が素晴らしい発達をしています。一昨年の医療費は実に12兆円ということです。これほど巨額の医療費をかけて、こんな素晴らしい医療設備なり、あるいは医療の学問を持ちながら、現実に病人は増える一方です。しかも難病・奇病も増える一方なのです。どのくらい増えるのかと申しますと、昭和30年には、国民1000人当たりの病人の数が37.9人だったのが同55年には110.4人。同56年130.5人、同57年138.2人。これは厚生省の発表で、こんなに増えているのです。
しかも、この病気の種類ですが、流感がはやったとか、あるいはチフスがはやったとかいうようなことですと、これが治ればまた、国民が元気になるのですが、今どんどん増えているのは、退行性の疾患と申しまして、人間の体が、根本から腐ってしまうような病気なのです。
これでバタバタ死に出した時には、生き残っている人も、もうだめ、というような病気です。
まず、癌。これは昭和55年に国民の死亡の第1位に躍り上がってきました。それから白血病、慢性の肝臓病、腎臓病、糖尿病、心臓血管系の病気、リューマチなどなど。
こういった、国民の体が根本から腐ってしまうような病気がどんどん増えてきているわけです。のみならず、現在の進んだ医学でも原因も分からなければ、治療の方法も分からないというような難病、奇病です。
この間、私のいとこの嫁さんが、熱がどうも下がらない、元気はいいのだが、熱が下がらないのだという話です。
いくら病院で調べても、どうもないのだけれど、何か顔付きなり、身体つきがおかしい。膠原病ではないかと専門医の所へ行ったら、そうだった。そしてわずか3ヵ月で死んでしまった。かわいい子どもを3人のこして32歳で死んでしまった。
こういったような膠原病、あるいはエイデトーレスとかベーチェットとかいったような、原因も分からないし、治療のしようもないような病気が、どんどん、どんどん増えてくる。
ところが、この増えてくる難病、奇病は共通している所がある。何かというと、全部、慢性の新陳代謝異常である。
これだけ医学が発達したにかかわらず、病人が増え、難病、奇病が増えてくるということは現代の医学に何か重大な欠点がある。なるほど立派な医学です。けれども何か足りないものがあるということを物語るのです。
たとえ、簡単な薬しかなくても、簡単な設備しかなくても、国民が病気から解放され、そして病人の数がグーンと減っていったら、これは医学の大成功です。今のは何か欠点が考えられます。

(以下、次号に続く)

 

 

私たちの暮らしと発酵食品
今、発酵食品が見直されています。最近、話題になっている「塩麹」などもその一つです。テレビを見ていても、本屋さんの店頭にも塩麹のレシピ本がずらりと並んでいます。実際に塩麹を作って色々な料理を試してみましたが、少し使うだけで食品の本来の旨味を引き立たせる、便利で美味しい調味料でした。そう考えてみると私たちの身の回りにはたくさんの発酵食品があり、知らず知らずのうちに口にしています。この「発酵」とはどのようなことなのでしょうか。

 

◇ 発酵食品とは
物質が微生物(菌や酵母)の働きによって有益な方向へ変化した食品です。微生物は、食材に含まれるデンプンや糖、タンパク質などを分解、合成し、新たな成分を作り上げます。例えば納豆は納豆菌の働きにより、独自の成分「ナットウキナーゼ」が生まれて血液の流れをよくしたり、ネバネバ成分の「ポリグルタミン酸」はお肌の潤い保持に効果があります。発酵食品は発酵の過程で食材が新たな栄養分を吸収するため、発酵前よりも栄養価が高くなり、もとの食材にはない美味しさが生まれます。さらに発酵によって生み出される酵素の働きで、タンパク質やビタミン類などの栄養が体に効果的に吸収されます。また、発酵は、食品の保存性を高める加工法ともいえます。発酵食品は塩を使って仕込むことが多い、ということも理由にあげられますが、そのほか発酵作用のある微生物には、ほかの微生物の繁殖をおさえる作用があります。この作用によって腐敗菌の繁殖がある程度抑えられるので、生の状態の食品よりも長い期間保存することが可能であり、さらに「熟成」という旨味を上げる効果も期待できます。
お味噌等の発酵食品は1、2年といった発酵熟成期間が必要となりますが、現在は効率とコスト優先で、化学の力を借りれば数カ月で作ることもできます。例えば「天然醸造」と称しているものの大半も、実は化学薬品を使って分離培養された麹(こうじ)菌で作られたものだということです。スーパーに並んでいるものにはこういったものが多いのです。これでは、食材が本来持っている力をもらうことができません。本当の意味で『発酵食品』と言えるものはごくわずかです。いくら発酵食品が腸内環境にいいといっても、遺伝子をいじられた菌だったり、材料が農薬や肥料で汚染されていたりすると、結局は体に負担をかけて免疫力が低下してしまう事になります。必ず安全な材料で作ったものを摂取することが大切です。

 

◇ 腸内環境
昔から日本人が食べてきた発酵食品は少量の摂取でも菌が生きていれば腸内で繁殖するため、腸内環境を整える作用があります。
腸内環境はストレスに対してとてもデリケートです。便利で複雑な現代生活は、ストレスや甘い物の食べ過ぎなど腸内環境を悪化させる外的・内的要因がたくさんあります。そして腸に悪影響を与えている原因として、活性酸素の増加があげられます。活性酸素は体外から入ってきた毒物やウイルスを攻撃する作用があります。つまり体の防御をしてくれる役目なのです。しかし、増え過ぎると多くの病気を引き起こす原因になってしまうのです。過剰なストレスがかかると活性酸素が増加しますが、この増加原因として見過ごせないのが環境汚染です。例えば水道水には消毒をするため大量の塩素が入っています。食生活では大量の食品添加物が含まれています。さらには大気汚染、土壌汚染、オゾン層の破壊などの環境汚染が私たちの周りを取り巻いています。現代人の食生活は手軽で便利になりましたが、それによって健康を失いつつあります。
もともと穀類を主食に繊維の多い野菜の副食といった食習慣の日本人の腸は西洋人に比べて長いといわれています。食物繊維は消化に時間がかかり、腸の中を時間をかけて移動し、消化・吸収されるため、腸が長く出来ているのです。ところが最近、食事の西洋化が進み、肉類や脂肪を多く摂取する食生活になってきたため、問題が起こっています。肉類は腸の中で腐りやすく、速やかに体外に排出することが望ましいのですが、腸が長いと排出に時間がかかり、腸内に長く留まり、ガスを発生させます。そのため腸に大きな負担がかかるのです。
「腸は第二の肝臓」といわれる重要な臓器です。この働きを正常に保つためにも、善玉菌を増やすよう心掛けたいものです。発酵食品に含まれる善玉菌は、腸内の環境を整え、老廃物やカスを体外に排出するよう促してくれます。

 

◇ 身近な発酵食品
毎日の食卓に欠かすことのできない醤油・酒・みりん・酢・味噌などの調味料や納豆・塩辛・漬物・なれ寿司・ヨーグルト・チーズ・ワインなど各地域の食材や、気候風土などと関わりを持ちながら伝統的な食文化が世界各国で作り上げられています。日本にも昔から伝わる多くの発酵食品があります。腸内環境を整えるには毎日継続して適量を食べる事が大切です。

 

 

農場便り 4月

 

清明の季節を迎え、地上のすべての生命が躍動を始める。大木となった山桜の高い所に止まった小鳥が春の訪れを美しいさえずりで知らせる。木々の小枝の先には新芽が膨らみ、桜の花芽は今咲かんと時を窺う。
畑土も冬の地から春の地へと変化し、地上では小さな虫が春の陽を浴び、せわしなく動き回る。取り残しの冬野菜にはたくさんの蕾がほころび、和ミツバチや花アブが羽音をたて、花から花へと飛び回る。閑散としていた畑では、3月中旬から苗を定植、播種をした葉物野菜が芽を吹き、少しずつ賑やかになってきた。ビニールトンネルに入れられた育苗用トレイには夏作物の小さな苗が育ち、隣には関西の春を告げる葉ゴボウがすくすく育っている。4月中には春の香りを食卓にお届けできることを楽しみに管理に励む。
慈光農園には大きな倉庫があり、男所帯のためか乱雑さが目につく。その一番奥にある大型の冷蔵庫には一年を通じ、たくさんの種類の野菜や果物を保管している。長期保存の代表はじゃが芋、玉ねぎ、キウイ。庫内の温度を2、3℃に設定し、発芽を抑え、年間を通じて途切れる事のないよう保存する。冷蔵庫の中は6畳と3畳に分かれており、大きい方には玉ねぎ、じゃが芋を中心にその他のものも保管するが、小さい方にはキウイだけを入れ、他の作物とは隔離して保存する。というのも、他の作物を一緒に入れると、キウイの追熟を早めるエチレンガスを出し、たちまちキウイを柔らかくしてしまうためである。この貯蔵専用冷蔵庫のおかげで、以前は年越しと同時に芽が出てしまっていたじゃが芋や玉ねぎが、今では新じゃがや新玉ねぎの出回る頃まで発芽が抑えられ、出荷が可能となる。ここでいつもであればじゃが芋と玉ねぎについて説明させていただくのだが、もう既に両者とも紹介済み故、又機会があれば詳しく紹介させていただく。
春の一日は非常に長い。周りの景気は湿度の少ない澄んだ空気の冬に対し、春霞でボーッとした春の風景はパステル調で淡い色合いがとても美しい。夕日が射す頃には、より淡さが増し、そこには癒しの空間が生まれる。時の過ぎるのを忘れ、腰を下ろして夕空を見上げ、周りの山々の風景にしばし時を忘れる。畑に目をやれば、モグラが持ち上げた土が小さな突起物のようになっている。春の暖かさが土中のモグラにも届いたのであろうか、又息を吹き返し活発に動き出した。このモグラ、時に農作物に害を及ぼし、招かれざる客である。
鼻がムズムズするのも春、これ以上下品なくしゃみはないであろうというくらいのくしゃみをする。くしゃみは谷を越え、向こう山のどてっぱらに跳ね返り、やまびことなって帰ってくる。雑木で楽しそうに遊んでいた小鳥も一目散に飛び立つ。母が生前「もっとお上品に」と口うるさく言っていたことを今更ながら思い出す。
静寂を迎えた山の中、山桜の小枝の春風を切る音がかすかに聞こえる。日本人の最も愛する植物でもある桜。日本にはヤマザクラ、オオヤマザクラ、エドヒガンなど5から7種類の桜が確認されている。変性や交雑は数十種にも及ぶ。中でも有名な桜代表種にソメイヨシノがある。江戸末期から明治にかけ、東京の染井村でたくさん栽培され全国へと広まった。見事な花の咲きぶりが日本人をとりこにし、毎年多くの人に感動を与えてきたこの種、自ら子孫を遺すことが出来ない不稔性であり、人工的に作出しなければ絶えてしまう種でもある。日本中に広がり過ぎたソメイヨシノは桜の生態系を崩してしまったとも言われている。土中に病原菌が繁殖し幹ごと枯らしてしまい、他の害虫などによるダメージも大きい。我が県の誇る吉野の桜も立ち枯れが発生し、関係者は頭を抱えているようである。農業も同じように、単一作物を長年生育しつづけると栄養バランスが崩れ、病気との闘いを余儀なくされる。町の中や公園に晴れやかに咲くソメイヨシノとは対照的に人知れぬ地でひっそりと咲く山桜にも少し目を向けていただきたい。ソメイヨシノのような華やかさはないが、周りの雑木と相まって咲く凛とした桜の美しさを感じる事が出来る。
暖かくなるにつれ農作業も日増しに忙しさが加速する。のどかな春の風景とは真逆である。苗の定植、播種、除草、5月に入ると早くも春草に代わって夏草が顔を現わす。額に汗をするようになった時、そして冬の間は白かった肌の色が日焼けした褐色の肌に戻った時、シーズンの始まりを感じる。山桜が作業する私達にエールを送ってくれる。時に色濃く、時に淡く、そして花びらが春風に乗り畑へと舞い降りる。四季を通じ、心の中に豊かさを育ててくれる大自然に感謝。

 

 

花びらが舞う農場より