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慈光通信 第155号

2008.6.1

生命を守る正しい農法の追求 6

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、昭和47年8月20日 財団法人協同組合経営研究所主催 第2回夏期大学における梁瀬義亮前理事長の講演録です。】

 

 

骨折する子が多くなったこと

 

 

考えてみると、現在の栄養学の理論で行きますと、日本でもアメリカでもヨーロッパでもアフリカでも、どこでもみな同じ理屈がとおります。そこに民族的な差異とか、気候風土の差とか、歴史の差とか、こういったものはでてこないんであって、どの民族にも通じる。
のみならず、人間だけでなく、牛でも鶏でもみな同じ理論が通ずるんです。しかしやはり、牛には牛の餌があるんであって、牛に肉や魚を食べさせたら食べないでしょうし、食べさせたら病気になるだろうと思うんです。そんなわけで、現在われわれが、こうだと考えている栄養理論は抽象的なものであるというそしりをまぬがれないと考えます。臨床をやっているとそういうことを感じる。
現在私たち日本人は、白米を食べ、肉の消費も相当大きい。肉、魚、卵など動物性のものの消費が非常に大きくなった。それに対して、かってたくさん食べた野菜が少なくなってきています。経済的にも、高くてうまくいかなくなった。海藻類にいたってはうんと減りました。これでどうなるかといいますと、カロリーも蛋白質や脂肪や含水炭素も十分あるが、鉱物質とかビタミン、それに未知のファクターがうんと減ってしまった。
こういう栄養状態を続けておりますと、血液が酸性化し、さまざまな欠乏がおこって、生命力の低下がおこってくるわけです。肩がこって仕方がないとか、疲れやすいとか、だるいとか、ぼんやりするとか、夏になると昼から眠くて辛抱できないとか、そういうような、とにかくだるいという感覚が出てくる。これがまず新陳代謝がうまくいってない証拠です。
それから、非常にバクテリヤやビールスに侵されやすい。扁桃腺がはれたり、気管支炎をおこしたり胃腸障害をおこしたり、それが高じてリューマチとか、腎臓炎とかいろんなものをおこしてくる。微生物に冒されやすくなる。又、カルシウム欠乏が特に目立ち、骨が柔らかくなります。最近,接骨医さんが非常にはやるんです。
東京におります私の友人が、郷里に帰ってまいりまして、私がこの話をしたんです。要職に付いた人ですから、その人に知ってもらえば、学校給食などのためにもなろうと話したら、それではじめて分かったというんです。「私たち子どもの時分に随分悪戯をして、木から落ちたりがけから落ちたりしたけど、骨折なんかおこらなかった。それが、自分には男の子が5人いるが、みんな骨を折ってしまった。栄養をと思って大いに肉食をやっていたが、それが悪かったんだwろうか」といっておられました。
それから歯が悪くなり、虫歯が多くなったんです。私の友人の良心的な歯医者さんは、一生懸命に患者さんに歯の指導をしておりますが、いまのままでいくと、二十歳代で総入歯をする人がたくさん出るだろうといっています。
それからむち打ち症ですね。これが非常に多い。もちろん自動車が多くなったから、衝突するチャンスも多くなったんでしょうが、別にそういう事故がなくても、高いところから飛んだり、あるいはちょっと落ちただけでも、むち打ち症的な症状をおこす方が多いんです。それから腰いたです。ぎっくり腰といいますか、あるいは、椎間板ヘルニヤですが、いろんな腰痛のかたが非常に多い。
食生活の改善がぜひとも必要
これは、私たち日本人の食生活が、ビタミンや鉱物質や、未知の大事なファクターがぬけてしまうような食生活をやっていること、現在の栄養学の欠点をさまざまと現しているもので、肥満児というのもそういった問題からおこってくると考えられます。
そこで、これをなくすために、私は統計から逆に分かってきたのですが、患者さんにこんなことをすすめているんです。患者さんで、私のおとくいさんがあるわけです。毎月一ぺん位子どもが熱を出して、私のところへこなければならない家があるわけです。そこの家は病気ばかりしている。そういう家を積極的にご指導申し上げたわけです。
まず第一に、農薬のないことを前提にしている話ですけれども

 

・玄米を食べろ。半つき米を食べろ。
・麦を食べろ。
・それから野菜を、私たちの農場で作ったのをたくさん食べるようにすすめる。
・海藻類もすすめる。(最近はPCBの問題がありますので、もっぱら北海道のワカメや昆布をおすすめします。)
・大豆をたくさん食べさせる。
・動物性の脂肪はなるべくやめさせて、植物性の脂肪にする。果物の消費もかなりしていただく。
・それから白砂糖を全廃して、黒砂糖をなるべく使っていただく。味つけがうまくいかない場合は、白と半々くらいにするというようなことをやかましくいいまして、
・肉食を少なくして、蛋白は大豆を柱にして、それに乳製品、卵、魚等を適当に付け加える。肉はできるだけ少なくする。

 

このようなことをご指導ご指導申し上げますと、本当にそれを忠実の守ってくださったご家庭は、びっくりするくらい病気がなくなるんです。そのようにして、いろいろおすすめしたわけなんです。
これは分析のものの考え方から申し上げたわけですが、実際問題として、長寿村、短命村、あるいは健康村、不健康村を実際に調査することによって、一つのデータが出てくるわけです。そのデータが、いま申し上げたのと同じことが出てくるんです。
東北大学の近藤正二先生は、当時は二十五年かかって七百か村を調査なさいました。現在は、もっとたくさんの数になっているはずなんですが、その先生の出されました結論も、雑穀を食べる地帯は健康で、白米ばかりをたくさん食べ、塩からいおかずを食べているところは、四十歳をすぎると動脈硬化がおこってきて、中風がおこったりして短命である。海岸地域ですと、沿岸漁業をやって、海草やら野菜やら麦を食べている、いわゆる沿岸漁業の漁民は健康であるのに対して、遠洋漁業をやって、ブリやマグロといった肉をたくさん食べている漁業家は多病で短命であるということ。ある地方になりますと、野菜をほとんど食べずに、主食が肉になるような地帯の報告もきいておりますが、大体五十歳位も生きにくい、などと大体先ほど申し上げたのと同じようなデータが出ています。
(以下、次号に続く)

 

 

地球温暖化を防ぐために その3
慈光会職員全員が、アル・ゴア氏出演の映画「不都合な真実」を見て、「温暖化」という柔らかい表現ではなく「気候の危機」を膚で感じてきたことを、昨年、4月号でレポートさせていただきました。早急な温暖化ストップの為に、第一番目に「1.個人で出来る省エネ」について調べ、4月号でお伝えいたしました。 前回では、個人ではなく、「2.電力会社が取り組める省エネの工夫」を集めました。「眼から鱗」の発想もありましたね。今月号では集団で取り組む省エネを特集しました。

 

 

3.集団で取り組む省エネ

 

 

1)日本の国が進める「ESCO事業」

 

 

「ESCO事業」とは経済産業省、資源エネルギー庁が、(財団法人)省エネルギーセンターに委託し、実施している事業です。
日本は京都議定書に基づいて1995年現在に比べて2012年までに6%温暖化ガス(二酸化炭素を含む6種類)を削減することを求められていますが、自治体も企業も深刻な財政危機で、その取り組みはなかなか進まないのが現状です。
そこに「ESCO事業」が登場しました。仕組みは以下のようになっています。(「VOICE」ホームページより抜粋)

 

 

〈大阪府のある施設で年間一億円の光熱費がかかっていたとすると、ESCO事業者は改修工事を行って省エネに取り組みます。
そして光熱費を2割カットすれば2000万円が浮くことに。
この一部が工事費にあてられ、残りが業者の報酬と利益になります。大阪府は何もしないまま、無料で光熱費を削減できる、というわけです。
ある病院ではESCOの導入で年間3億円だった光熱費を8000万円近く減らすことに成功しました。〉

 

 

何故こんな大幅な省エネが可能なのでしょうか?ESCO事業に携わっている専門家は、施設のあらゆるところを見回り、エネルギーの無駄をチェックします。例えば、ある設備の内部の電気抵抗を変えるだけで、大幅な省エネを実現した例があります。これはプロならではの視点がないと実現できないことです。或いは非常灯のサイズを小さくしたり、トイレの水の流しっぱなしを防ぐため、擬音装置を導入するなど、隅々まで見直しを図ります。8000万円の光熱費削減を実現した上記の病院では、初期投資にコジェネレーションシステム(熱併給発電)を導入しました。これにより病院全体の使用電力の40%を自家発電でまかなえるようになり、発電のとき発生した熱を回収して暖房、給湯に使って省エネを図りました。コジェネレーションシステムには1億円ほどの投資が必要でしたが、毎年浮いてくる8000万円で初期投資は2年もかからず回収できる計算です。業者に支払う金額が終了すれば、病院は毎年8000万円の光熱費を支出せずにすむことになり、経済的にも助かり、省エネにも環境保護にも貢献できる、しかもそれが一銭の支出もなしに実現できる、というまさに夢のようなお話です。
今までにこの「ESCO事業」を導入したのは、9割までが民間の施設だそうです。お役所は縦割り行政で、なかなかこのシステムにゴーサインが出ない事情があるとか。上記で紹介されている病院の成功例があるのですから、今後多くの公共施設でもこのシステムを導入すべきでしょう。そして国には、もっと「ESCO」のPRをしていただきたいものです。知られずに放って置くには余りにももったいない、アイディアに富んだ「ESCO事業」ではないでしょうか。

 

 

2)大阪茨木市の取り組み
茨木市内には国の省エネモデル地区に指定された戸建て住宅1500戸のニュータウンがあり、区画ごとに様々な温暖化対策に取り組んでいます。

 

2-1)屋根にソーラーシステムを取り付けて、太陽光発電に取り組んでいる地域。

 

2-2)ガス発電に取り組んでいる地域。
ガス発電の時の余熱を利用するとCO・が30%も削減できるそうです。これを「コジェネレーション、熱併給発電」と言います。「ESCO」の項で紹介した病院と同じシステムですね。コジェネに取り組んでいる地域では、家の構造そのものにも工夫がなされていて(外断熱。家全体が魔法びんのような構造になっている。)、4LDKのお宅で、真夏でも、ガス、電気代合わせて9000円位の出費で済んでいるそうです。
 

3)各地での車の排気ガスを減らす試み

 

3-1)富山市の場合:路面電車「ライトレール」の導入
富山市は1軒あたりの車保有台数が全国でもトップクラスの1.6台。それが最新型の路面電車ライトレールを導入してから、市民の車利用率が減ってきたそうです。
1時間に1本だったJR時代のダイヤを変えて、10?15分間隔で運行するよう本数を増やし、運行地域を郊外と都市中心部を結ぶよう変更し、富山市周辺部に拡散していた都市機能や住宅を路線沿線に集め、高齢者で免許を返納した人たちに無料利用パスを配布するなど、工夫を重ねた結果、利用客がJR時代の2倍に増えたそうで、削減されたCO・量は463トンにもなるそうです。
「車をそんなに必要と感じなくなった。」とはお年寄りの弁。「車で通勤するより快適です。通勤にこういう方法もあったのだなあ、と再認識しました。」とはサラリーマンの弁。
コンパクトな町づくりが温暖化対策に結びつきました。車をあまり必要としない町づくりによって、CO・削減は可能であることを証明してくれた例です。

 

3-2)札幌市のパーク・アンド・ライド方式
これは郊外の最寄りの駅まで車で乗ってゆき、そこから、電車やバスのような公共交通機関を利用する、といった方式です。都市内部に往来する車の数を少なくする、というメリットがあります。郊外駅前の駐車場の確保は平日のスーパーの駐車場を自治体が借り上げて市民に提供する、という試みもなされています。

 

3-3)福岡市の共同集配システムの試み
色々な運輸会社のトラックが何度も同じ店に配達するのを避けるため、行政、業者、商店が一致協力して、新しい集配システムを作り出しました。Yellow Bird(イエローバード)と書かれた黄色い車が一括して配達を受け持ちます。全国に広がれば、大きな省エネが見込まれます。

 

3-4)茨木市の「カーシェアリングシステム」の導入(個人で車を所有せず、地域全体で車を共同利用するシステム)
これは車そのものの所有台数を減らそうとする試みです。利用法は極めて簡単。パソコンで使いたい日時を予約しておけば、自由に使えるのです。使用料は1時間約1000円。購入費、駐車場代、保険、税金、修理費、洗車など車にまつわる費用と手間がまったく要らなくなる上に、環境にも良いカーシェアリングシステム。「無駄な利用を減らすことが出来た」「近くにゆくにも従来は車を使っていたが、今は、歩いたり、自転車を利用したりするようになったので健康にもよい。」と利用者の声は上々です。ヨーロッパやアメリカでは早くからこのシステムが導入され、専門のカーコーディネーターの活躍により通勤や通学にも利用されています。

 

 

農場便り 6月

 

「雨上がる。」
風に揺れる木々は葉面に溜まった雨粒を宝石のように輝かせ、地上へと降り注ぐ。切れた雲間よりお日様が顔をのぞかせ、暗く重苦しい空間を輝く風景へと変化させる。深く谷間を埋め尽くしていた霧は一気に山の稜線まで駆け上がり、周りを水墨画の世界に変える。気温が上がり蒸し返る中、堆肥を多く含んだ畑土から水蒸気が上がる。大きく開いたキャベツの葉は雨を弾き、葉上には小池ができ、その横をカタツムリが時が止まったかのようにゆっくり歩く。この平和な自然の姿を目にする時、隣国の災害が脳裏をよぎる。
作物の種類によりこの蒸し暑さを好むもの、苦手とするものとに分かれる。好む作物に里芋、ゴーヤ、ナス、シソ、きゅうり等があり、キャベツ、ほうれん草、小松菜などの葉物の殆どは苦手とするものである。中でもレタスは見るも無残な姿になる。私もレタス以上に高温多湿を苦手とするが、悲しいかな一向に食欲だけは落ちることが無い。雑草は気温、湿度の上昇と共に益々勢いづいてゆく。
6月初旬、雑草群が夏用にと定植したチマサンチュの苗に襲いかかり、あと僅かですっぽり覆い尽くしそうな勢いである。晴れ間を見、除草をするも草魂は頑強で中々枯れてはくれない。私の額からは滝のような汗が流れ落ちる。農場でこの蒸し暑い中、元気一杯に育っている作物にオクラがある。本年初めての挑戦、種まきから作業をし、今、本田で育っている。盛夏に近づくと、中央が真っ赤な大きな黄色のハイビスカスのような花を咲かせる。オクラはアオイ科 トロロアオイ属、和名をアメリカネリ、他にも陸蓮根(オカレンコン)の異名を持つ。原産国はアフリカ北東部、熱帯から温帯で栽培され、エジプトでは紀元前より栽培され、奴隷制度の頃アメリカに伝わった。日本に初めて渡来したのは江戸時代の末期頃である。熱帯では多年草となるが、日本では夏場だけの一年草となる。ネバネバの正体はペクチン・アラバン・ガラクタン等の食物繊維で、ペクチンは血糖値の急上昇を抑え、糖尿病の予防にも役立つ。また整腸作用があり、たんぱく質の吸収を助け、コレステロールの吸収を抑える。他にβカロチン・ビタミンB1・ビタミンC・ビタミンE・カルシウム・鉄を多く含み、食物繊維は特にビタミンCの吸収を助け、夏の強い紫外線から肌を守り、シミを出来難くする効果がある。盛夏には牛の角(或いは妻の角)のような形をしたオクラが慈光会販売所にお目見えする。
梅雨も日を追うごとに本格的になる。日本列島で梅雨前線が太平洋と日本海を行き来する。その度に大雨となり、時には恵みの雨、時には災害となる。自然の猛威により、一瞬にしてアジアの民の尊い命が奪われた。いつも恵まれない人々が犠牲となる。テレビの映像では、ミヤンマーの災害地で、澄んだ美しい目をした子供達が親を亡くし、恐怖に怯える姿が映し出される。その光景を見た時、世界一貧困な地、フィリピンのスラムに住み、マニラのゴミ処理場でリサイクルゴミを拾い、家族のために米を買う少女の姿が重なって見えた。一家は災害で山村よりスラムに移り住み、テレビクルーの「あなたの将来の夢は?」との質問に少女は笑顔で答えた。「一生懸命勉強し、ナースか学校の先生になり、この貧困から人々を救ってあげたい。」その言葉に思わず目頭が熱くなった。恵まれ過ぎた環境の中で何不自由なく育った私達は、今何を考え行動するか、日本国民として考えるべき時が来ている。将来迎える老後の生活も大切であろう、しかし、今を生きて行けない災害や餓えに苦しむ多くの民をまず考えなければならない。アジアの情勢が平和へと進み、大米作地帯に黄金色の稲穂が平和の風にたなびく日を、と願う。今回の災害で亡くなられた多くの人々のご冥福を心より祈る。

 

 

雨上がりの農場より