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慈光通信 第194号

2014.12.1

病気のないすこやかな生活 ― 医・食・住 ― 17

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1982年(昭和57年)3月6日 熊本県立図書館ホールでの講演録です。】

 

 

ハコベが生えるまで肥運べ

 

 

例えば、ハコベです。私の地方では「ハコベが生えるまで肥運べ」という、しゃれのような例えがあります。ハコベがいくら生えても、我々の植物の邪魔をしない、ということを言っております。
ところが、ハコベの生えないような痩せ土に作物を植えますと、痩せた土を好む草ばかりが生えて、我々の食べる植物は全部やられてしまうわけになります。
以上のように輪廻の法則をよく守ってやりますと、私たちの実体験では理論通り、お米で22年、野菜で20年、完全無農薬、完全無化学肥料でよくでき、そして品質、生産量もますますよくなります。それから、労力も決して多くないのです。協力農家の方々も大変、喜んでくれています。西尾さんという奥さんがこういうことを言いました。農業新聞記者のアメリカ人が私たちの所へ訪ねてきた事があるのです。その時、西尾さんの家へちょうど見学に連れて行ったんです。ちょうど夏でスイカを出してくれました。アメリカ人は、そのスイカを食べて非常に感動して「日本へ来てこんな美味しいスイカを食べたのは初めてだ」と言って、食べて、食べて、とうとう赤い部分だけでなく、あの青い部分まで食べてしまいました。その時、西尾さんの奥さんはこんなことを言いました。「私の主人は非常に進歩的な人で、村に先んじて近代農法をやっていましたが、病気ばかりしていました。今から20数年前は私は病気こそしなかったけれど、朝起きてご飯の支度をするたびに、何と百姓というのは悲しい職業だろうとしみじみ思ったのです。ところが、この無農薬有機農法を始めてから、もう朝起きる時にうれしくって、早く朝餉(あさげ)の準備を済ませて畑へ行きたいという気持ちでいっぱいです」と。
アメリカ人は、この話に感動して、それをアメリカの雑誌に載せたのです。
協力農家の皆さんは非常に喜んでやってくれています。また、協力農家の二人の奥さんが話しているのを私は横で聞いていました。
その一人はこう言いました。「6年前までは私の家は地獄だったが、今は天国ですね」と。
もう一人が言いました。「私は農業が嫌で嫌でかなわなかった。だから農業を辞めようと思って梁瀬さんに相談に行ったら、こうしたらと言われたんで、無農薬有機農法に踏み切りました。今は本当に農業が楽しくて楽しくて」と。これが有機農業の精神であり、結果であると思うのです。

(以下、次号に続く)

 

 

癌が増えています!
完全無農薬有機栽培の野菜(菜っ葉、根菜共)には、癌を防ぐ強い作用があります。イモ、マメ、菜っ葉、海藻などをしっかりお召し上がり下さい。

これは慈光通信にも出て来ますのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、前理事長の著書や講演にはよくこの言葉が使われています。
今や日本の死因の1位は癌、2位は心疾患、3位は脳血管疾患、と前理事長が生前危惧していたことが現実となっています。かねてより前理事長は、「日本の土壌は火成岩性の酸性土壌であり、欧米のように水成岩性のアルカリ土壌でミネラル(鉱物質)が豊富なところの栄養学の真似をしてはいけない。」と言い続けてきました。日本には日本の風土に合った食生活があります。少々の動物性タンパクと、有機栽培の安全なイモ、マメ、菜っ葉、海藻などを意識してバランスよく食べるということが大切なのです。
最近のコンビニやスーパーなどには一見、便利で美味しそうな食品がたくさん並んでいます。どんなものでも売っているので、お惣菜を買ってレトルトをレンジでチンすれば、もう豪華な食卓の完成です。以前、「うちのキッチンは、ハサミがあれば包丁やまな板は必要がない」と言った知り合いの奥さんがいました。その時は驚きましたが、確かにただ食事を用意するだけ、というのであれはそれでもいいのでしょう。しかし、それでは家族の健康を守ることはできないのです。レトルト商品に使用される食材はミネラル分(カルシウム、鉄分等)などが欠如した「水煮食品」が大半で、必要な栄養は取れません。やはりイモ、マメ、菜っ葉、海藻などをしっかり食べなければ健康な生活を送ることはできません。これらの食品は昔から当たり前のように、食卓に並んでいた物ばかりです。
まず最初に「イモ」。芋にはじゃが芋、さつま芋、里芋、山芋などいろいろな種類があります。それぞれ含まれる栄養成分は違いますが、じゃが芋にはビタミンCやカリウムなどが多く含まれ、高血圧の予防や改善に効果があります。さつま芋に含まれる食物繊維はジャガイモの約2倍で、イモ類の中では一番の含有量です。さつま芋を切った時、切り口からにじみ出る白い乳汁はヤラピンという成分で、便をやわらかくする働きがあり、食物繊維と合わせて、便秘の予防・改善、大腸がんの予防に役立ちます。
また、さつま芋やじゃが芋の皮にはポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が多く含まれています。これはコーヒーにも含まれる栄養成分で、活性酸素による害を防ぎ、がんにつながる細胞の突然変異を予防します。この抗酸化作用でコレステロールを低下させ、動脈硬化を防ぎます。なので、皮を良く洗ってむかずに調理するのがおすすめです。ふかし芋は皮ごと食べられますし、フライドポテトなどは皮ごと揚げると、皮が香ばしくて美味しく食べる事ができます。コロッケを作る時も皮付きで茹でて、そのままつぶして使えば皮は何も気になりません。里芋や山芋のぬめりの成分はムチンで、胃の粘膜を保護する作用や、腸内で糖質や脂質の吸収を遅らせる働きがあり、血糖値上昇の抑制に効果があります。食べると美味しい芋なのですが、里芋や山芋にはシュウ酸カルシウムが含まれているため、この針状になった結晶が皮膚をチクチクと刺し、皮をむく時に手がかゆくなる人がいます。刺激に弱い人はビニール手袋の上に軍手をして皮をむく事が一番良い方法ですが、素手でむく場合は、むいてしまうまで手をぬらさない事が大切です。もしかゆくなってしまった時は、お酢でしっかりもみ洗いをして水で洗い流すとかゆみがとれます。シュウ酸カルシウムがお酢と化学反応を起こし、結晶が溶けて行くのです。
次に「マメ」。豆類には、食物繊維、サポニン、ポリフェノール等の機能性成分が多く含まれており、これらの健康に及ぼす効果が最近注目されています。食物繊維は、先ほどのさつま芋にも多く含まれていましたが、小豆やいんげん豆にはさつま芋の約3倍も含まれ、豆類は食品の中でも際立って食物繊維の多い食品と言えます。
豆類の中でも、日常よく使われるものに大豆があります。大豆は醤油やみそ、納豆など日常生活には欠かせない発酵食品としていつも私たちの周りにあります。大豆は「豆の王」と言われるように豆類の中でもタンパク質の含有量が最も多く、しかもアミノ酸の組み合わせが動物タンパクによく似ていることから、「畑の肉」とも称される非常に優れた栄養食品です。脂肪も多く含まれていますが、動物性の脂肪のようにコレステロールが多くないので安心して食べられます。大豆を使った食品で思い浮かぶものに豆腐があります。元来大豆は消化のあまり良くない食物とされていますが、豆腐となった場合、その吸収率は極めて高く、92から98%が消化吸収されるとされています。人の体の三大栄養素であるタンパク質、糖質(炭水化物)、脂質のうち、豆腐は特に良質なタンパク質と脂質に富んでいます。最近では、豆腐はカロリーが少なく、水分が多いため満腹感が得られ、かつ、栄養不足にならないという点で、ダイエット食品として使われる事があります。昔から豆腐などの精進料理に用いられたり、豆腐を多く食していた地域に長寿者が多いと言われる事から、健康を増進し老化を遅らせる成分・物質をいろいろ備えている豆腐は長寿食ともいえます。肉食の多い欧米等でも豆腐に関心が高まり、今や「TOFU」の名は、世界で通用する言葉となっています。
また、大豆を磨砕し加熱した後、豆乳を絞りとった残り(絞りカス)がおからです。したがって、おからには、大豆の皮や胚芽部分などの繊維質がほとんど移行しています。食物繊維は、便通を良くし有害物質の腸内滞留を防ぐほか、高コレステロールや肥満を予防する働きがあるとされています。
(以下、次号に続く)

 

 

農場便り 12月

 

気温の低下と共に空気は研ぎ澄まされ、冷たい空気は農場を深く包み込む。
真っ赤に紅葉した山桜の葉は、いみじくも降る晩秋の雨に叩かれ一夜にして落葉となり、冷えた地上に美しい色を添える。2、3日で落ち葉は乾き、行き帰りのトラックが起こす風に巻き上げられ、後を追うようにカラカラと音を立てる。「人生は短いものである。無駄な時間を送ることを慎み、日々努力に励む。それが社会や人のためになり、自身のためにもなる。」前理事長の言葉であり、毎年、年の終わりに近づくこの時期に思い出される。
日々書き綴った日記を基に一年の農場を振り返る。「本年も頑張るぞ」と気合を入れた元旦の朝、美酒とご馳走に煩悩がフツフツと湧きあがり、「一年の計は元旦にあり」は遠く彼方へ。三が日は瞬く間に過ぎ去り、本年の作業が始まる。暮れの掃除で美しく片付けられた農場の倉庫の中でこれからの一年の願い、そして旧年の感謝も込め大地に祈る。感謝より願い事の多い心で本年もスタートを切った。1月のほとんどを収穫で費やし、夏・秋作で使った道具の後片付け、空いた畑の寒起こし等、日一日と寒さが増す。
土の中深い眠りについている里芋を揺り起こし、大地深く根差したゴボウを真冬だというのに、上着一枚になり額に汗をにじませ掘り起こす。一方では、ビニールや不織布のトンネルの中でぬくぬくと育つ葉野菜を寒風吹きさらす中、葉や茎を折らないよう一本一本丁寧に抜き取る。手の冷たさ、腰の痛さに深々と冷える体。「もし人間に生まれ変われたとしても、絶対、耕人にはならないぞ」など、いい年をしてつまらぬ事ばかり頭に思い浮かべながら作業を進める。冬野菜は四季折々の野菜の中で最も美味で味に深みがある。寒さに耐える生命力が味に深みを与えるのであろうか。
2月、大寒を迎え凍る大地で収穫は続き、時間を見つけては堆肥作りに励む。
3月、畑はほとんど空っぽ状態となり、取り残した野菜に小さなつぼみが顔をのぞかせ始め、春の気配を感じる。春が近付くと共に、鬱々とした気分にさいなまれる。本格的に始まる農作業、取れども取れども目を吹く雑草たち、野菜の作付けや成長の良し悪しなどの小心者に降りかかる難題は、毎年同じ迷いの心が頭の中を駆け巡る。その悪しき黒い霧も春陽が晴れ間を覗かせてくれ、時間と共に猪突猛進の意識が目覚める。春の畑、周りには色とりどりの花が咲き、耕作地には数多くの種類の作物が植え付けられた。一番はじゃが芋の植え付け、気温の上昇と共に夏野菜の苗が植えられ、日増しに畑は賑やかさを取り戻し、心地良い春風も躍動感を後押ししてくれる。日本の上空で、北からの高気圧と太平洋高気圧の勢力争いが始まった。梅雨前線が上空に居座り、鉛色をした空が何日か続く。畑の作物は過剰に含まれた土中の水分に「アップアップ」。中には体調を崩すものさえ出る。近年、晴天と雨天が極端になり、作物にとって成長しにくい環境になりつつある。
いよいよ7月、夏本番を迎える。暑さに弱い私には受難の季節がやって来た。抑制露地栽培のきゅうりは日々強くなる夏の日射しを受け、7月上旬より30?の前後の実がたわわに付き始める。誘引、追肥、除草、そして芽止め、葉かきと手間暇をかけ、やっと収穫にこぎつけた。生長点が最上部に達した矢先、収穫の際に目に入ったのは、何者かに食害されたきゅうりの実。最初はたいしたことがなかった食害も日増しにひどくなり、高所の実を食べるために大切なきゅうりのつるを引っ張るため、見るも無残なきゅうり畑へと姿を変えて行く。7月下旬、きゅうりはほぼ全滅。この時点で栽培を断念せざるを得なくなった。長年行ってきたきゅうり栽培で初めての出来事であった。もちろん犯人はご想像の通りあの憎きイノシシと鹿であった。来年からは栽培地を山の農場から平たん部の畑に変える。変えざるを得ないということである。一方、ナスは順調に育ち、たくさん収穫することができた。
7月下旬、暑い日が続き、頭はクラクラ、体はぐったりの中、キャベツの最終の収穫を行った。大きくまんまるなUFO型のキャベツを早朝、収穫ガマで一つ一つ大切に切り取ってゆく。当農場では7月中下旬が栽培の限界温度でもある。
7月上旬より秋冬収穫のキャベツ、ブロッコリー、そして少量のカリフラワーの播種を行う。毎年、小さな害虫に赤ちゃん苗を食害され頭を抱えるが、本年は何が功を奏したのかきれいに苗が育ち、8月中下旬より本圃に定植。定植後たっぷりの水を根元に与え、猛暑に負けないよう日々管理にいそしむ。トラックの荷台には常に大きなタンクが積まれ、喉を乾かす小さな苗や8月下旬に播種をした発芽直後の小さな芽に日々水を与える。
9月中旬、朝夕の涼しい風が日焼けした肌に心地良い。この頃、秋冬の作物の間や畝間に夏の暑さに打ち勝った雑草の芽が顔をのぞかせる。厄介なことに、7割はイタリアンライグラスの芽である。その生命力の強靭さと牛が好んで食べる事から、牧草としてイタリアから入って来て牧場で育てられている草である。管理機や除草ぐわを駆使し、毎日除草の日々が続く。
10月、今までに無く順調に育っていたキャベツや白菜に夜盗虫が発生し、外葉が食害を受ける。早生の白菜は、特に食害がひどく、一部収穫できないものもあった。大根、小松菜、ビタミン菜、水菜、そして晩生の白菜などは害虫は付かず美しい姿で育っている。播種期の少しの違いでこれほど作物の出来が違うものかと改めて思う。これらの作物の中に少量ではあるがお正月の祝い用に「金時人参」と「雑煮大根」がある。お正月を迎えるにあたり、無くてはならない食材である。雑煮大根の作付けは、10月15日播種、超極早生種を使い、祝いの塗り椀に合うような太さと大きさに育て上げる。他の大根と異なる点は、大根独特の臭みがなく、いたって淡白な味、見た目が可愛く美しいという事だが、雑煮以外ではほとんど使われることはない。おそらく関西の雑煮に使われる事から、関西だけで作付けされているのであろうか。
金時人参は以前紹介させていた通り真夏に播種をし、水分を好む作物で毎日の灌水は欠かせない。発芽さえすれば、後は大根と同じく間引きと草取り、夏季の水分管理をきっちり行うことにより、暮れには真っ赤な肌の金時人参が黒々とした土の中から姿を現す。しかし、難点を申せば、根の部分が股になりやすい事である。西洋人参に比べ、多少作り難さとクズが出やすいのが難点である。真っ赤な金時人参を梅の花の形にくり抜き、お重に飾られるのを想像するだけでほっこりした気分になる。ちなみに大根とにんじんで作る「なます」はめでたい時に送る品々の水引を意味する。この日本の文化は、日本で暮らす人々にしか深く理解できないであろう。正月は一年で最も厳粛な行事であり、いつまでも守り続けてゆきたい文化である。
一年を通じ、農場の様子を書かせていただいた。度々文中に登場する害虫や雑草、それらに振り回されるのは私の不徳の致すところ、すべての中で生かされていることの事実を認識し、失敗の数々を書き記すことにより、有機農業を志す人々の礎になればと願う。前理事長が言い遺した「適地適作」で贅沢を求めなければ平和な日々を送らせていただけるのである。
冬の空気が重苦しく周りの風景を変える。ハシブトガラスの寂しい鳴き声だけが鬱蒼と茂る木々にこだまする。厳しいメッセージがラジオから聞こえてくる。バチカン市国の長が「人類はこのままでは滅亡のみが待っている」と世界へ発信。他の国際的機関からは「このままではあと30年で人類は滅亡への道を加速し、取り返し不能となる。今が人類滅亡から修正する最後のチャンスである」と。我々にはピンとこないが、飢餓と戦争、そして大自然の崩壊、次世代の人々が苦しまずに済むよう、今私たちができる事は、慎ましやかに日々の生活を送ることである。
生命の起源を調べるため、52億?の旅をするより、宇宙的数値から言えば目と鼻の先にいる病と飢餓に苦しむ人々を救うのが優先ではないだろうか。美しく幸せな日々を送る事は、貧しくともまず心と体が健康であることであろう。
美しい日々を送って頂けるよう、来る年も全力で土を耕し作物を育む。
除夜の鐘を耳にした時、一年の幸せを感じていただけますように。

 

 

仏教徒の我が家にもクリスマスがやってくる耕人より