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慈光通信 第177号

2012.2.1

重ねて食品公害にご注意!

 

前理事長・医師 梁瀬義亮

【この原稿は、1982年(昭和57年)3月6日 熊本県立図書館ホールでの講演録です。】

 

 

農薬による慢性中毒の害(農作物に残留する農薬の害、特に果物や季節外れの野菜等に甚だしい。家庭用殺虫剤の害や農家の農薬散布の被害および除草剤の害、或は輸入農産物の栽培中、或は輸送用に使われた農薬の残留の害等々)や食品添加物の害が、依然としてあるにもかかわらず、否、より甚だしい場合すら多いにもかかわらず、マスコミが一向に取り上げなくなってしまったのは全く不可解なことです。人々は食品公害の問題はなくなったと錯覚して、まあ大したことはないのだろうとたかをくくっている向が多いようです。然し現実に食品公害と極めて深い関係のある癌、リューマチ、肝腎疾患等々の多発が物語る如く、決してこの問題を忽(ゆるが)せにしてはなりません。
慢性中毒の害は2年3年では現れず、20年30年して癌やリューマチのような慢性退行性疾患として現れて来ます。この2年、3年、5年は大したことも無いということが恐ろしいのです。様々の安全テストは精々3年位ですから、所謂安全基準では分からぬ問題ですし、又、この頃さかんに出廻っているいい加減な健康食品と本当の健康食品の区別がつきにくいのもこのためです。
永い間食品公害の問題に携わってきて気付いたことは、健康食の問題も結局は人間同士の愛情と誠実と信用が本であるということです。正しい世界観や自然観、生命観、深い情緒や愛情や教養、立派な人格等々、―これが真の意味の正しい宗教でしょう―が健康食品問題と深い関係があるのみならず、唯一の解決の道と思われます。単に農薬をやめろ、食品添加物をやめろだけでは解決しないのです。
他の公害問題についても同様のことが言えます。(註:最近いろいろの公害がありますので、食品公害に注意しても仕方がないという人がありますが、そうではなくて、一番基本的な食品公害に注意することが他の公害に抵抗する力の本です。)正しい情緒と教養が個人の魂の救済のみならず、公害のない正しい文明の建設に如何に大切かを思うのです。
リンカーンのかの有名な言葉、「人民による、人民の為の、人民の政治」という民主主義の宣言の文の前に、「神の下に」という言葉のあることに御注意下さい。人間を越えた叡智と能力と愛の実在を信じない民衆の中の民主主義は、多数決の暴力となり、魔道に堕することは見られる通りです。
又、クラーク博士の有名な言葉、Boys be ambitious!「青年よ大志を抱け」の前に 、”In God”「神に於て」の文があることを御注意下さい。神仏を信じない野心は、恐るべき魔力となることは、過去も現在も歴史の示すところです。
公害の最大の根は誤った世界観、誤った人生観、生命観等々であることを痛感します。
有名なアメリカの公害科学者の言葉を御紹介しましょう。
「公害は科学によっては解決できない。公害を技術で克服しようとすると、今度はその技術によってまた新たに公害が出てくる。公害を解決するのは正しい人間の心である。」

 

 

 

危険な醤油「風」調味料

 

みなさんは、調味料の「さしすせそ」はご存知でしょうか。
「さ」は砂糖、「し」は塩、「す」は酢、「せ」は醤油、「そ」は味噌です。これらは基本調味料と言われ、料理の味付けの要になるものです。
今回、会員の方から、お醤油についてご質問を頂いたので、紹介させていただきます。

「友人からおすすめのお醤油を頂きました。普段使っている慈光会のものと、『原材料』が全然違います。これは使っても大丈夫なのでしょうか?」

そう言って、頂いたというお醤油を見せて下さいました。(ラベル1)がその原材料です。
比較として、慈光会の濃口醤油の原材料をご覧ください (ラベル2)。

 

 

ラベル1
こいくち醤油(本醸造)
脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩、砂糖・ぶどう糖果糖液糖、アルコール、調味料(アミノ酸等)、甘味料(サッカリンNa、甘草、ステビア)

 

 

ラベル2
濃口醤油(本醸造)
大豆、小麦、食塩

 

 

まず、最初に明言すべきは、(ラベル1)はもはや「醤油」ではありません。JAS法の規定をクリアしているので、「醤油」という表記は可能ですが、実際のところ「醤油風味調味料」です。

 

 

本醸造醤油

 

「ラベル1」には「本醸造」と記載されています。本醸造醤油とは、その響きから、質の高い、本物の醤油だと思ってしまいますが、一体どのようなものなのでしょうか。
本醸造とは、大豆、小麦などの穀物を蒸し、麹菌を用いて作成した麹に、塩水を混合して発酵・熟成させたものを指します。これを「本醸造方式」といいます。ここまでの手順は従来の醤油作りの、正しい工程です。従って、ラベル1の「醤油」は、そこまでの工程を踏み、出来上がった本醸造醤油に、後から様々な添加物を加えたものなので、本醸造醤油と謳えるのです。しかし、昔ながらの本物の醤油は「大豆・小麦・食塩」の3つで出来ており、それ以上のものは添加しません。
また、これ以外にも、もっと早くコストをかけないで作るために開発された醤油風調味料もあります。この製造方法は「混合方式」もしくは「混合醸造方式」といわれます。

 

 

醤油風調味料

 

まず「脱脂加工大豆」を塩酸で加水分解し、ここから「アミノ酸液」を作り、そこにうまみを出すために「グルタミン酸ナトリウム」を添加。甘みをつけるために「甘味料」を、酸味を出すために「酸味料」を、コクなどを出すために「増粘多糖類」を入れ、「カラメル色素」で色を、「本物の醤油」で香りをつければできあがり。製造には1カ月もかかりません。きちんと長期間熟成させるとコクと香りが増し、おいしい醤油になりますが、これはうまみが人工的に付けられているため、味に深みが出ません。現在慈光会では3年ものの醤油をお出ししています。

 

 

含まれる添加物とその役割

 

 

脱脂加工大豆
油を搾ったあとのカス。丸大豆(これは、大豆の種類ではなく、大豆丸ごとの事を指す)に比べ、圧倒的に安く、発酵が短時間で済むため、ほとんどの醤油に使用されています。

 

 

アミノ酸液
脱脂加工大豆を強塩酸で加水分解し、炭酸ナトリウムで中和したもの。醤油風調味料のベース液になります。

 

 

ぶどう糖果糖液糖
甘味料。安いデンプンからできていて、液体なので溶けやすく、よく使用されます。

 

 

甘味料(甘草、サッカリンNa)
サッカリンNaは人工甘味料の一つ。1960年代に発がん性が指摘され、一時使用禁止になりましたが、その後直接的な因果関係がないとされ、発がん性物質リストから削除されました。ただし、大量摂取の場合危険性があることから、食品衛生法により使用量が制限されています。醤油には1?あたり0.5gの使用が認められています。このサッカリンNaには苦みがあるため、次に記載するアミノ酸を併用して苦みを緩和させています。

 

 

調味料(アミノ酸等)
人工うまみ成分。グルタミン酸など。グルタミン酸はアミノ酸の一種です。化学調味料としてのグルタミン酸ナトリウムは、加熱により発ガン性物質に変わるといわれる化学合成グルタミン酸が主成分です。これを入れると、うまみが増すことと、舌をしびれさせ、サッカリンNaの苦みを麻痺させ、甘みだけを感じさせる役割があります。

 

 

カラメル色素
着色料として使用されます。

 

 

保存料(パラオキシ安息香酸)
日持ちさせるために入れます。

 

 

醤油は古来より、発酵調味料として、適度な摂取は腸内環境を整えるなど、日本人の健康にも密接に関わってきました。しかし、今ではむしろ体を痛めつけてしまうような品質のものが大変多くなっています。
以前、友人と食事をしていた時のことです。出てきたピラフは強い化学調味料の味がし、一口食べただけで、まるで舌に味がついたような違和感と後味の気持ち悪さに驚いたのですが、もっと驚いたのはそれを食べた友人の反応でした。「今まで食べたピラフの中で一番おいしい」と言うのです。
私は今まで、化学調味料を使わない食事をずっと続けて来ました。その為、余計に違和感を感じたのだと思いますが、その友人は、それが当たり前の「うまみ」だったため、何もおかしいと感じませんでした。人体を害するものが知らず知らずのうちに体内に入るのは、とても恐ろしいことです。
誰もが口にする調味料だからこそ、これから大きくなる子供たちの為にも、自らの健康の為にも、安全なものを選ぶ必要があります。そしてまず、どれだけ危険かを知ることが大切です。

 

 

農場便り 2月

 

氷雨が雨具の上から体温を奪う。輝く雪渓とは対照的に農場の周りの風景は深く沈む。雑木の枝に小さな水滴が弱く光り、地上に落ちた雫は腐葉土の中へと吸い込まれてゆく。
大寒、厳しい寒気が日本列島を包み込みんだ。ろうそくの肌のようなろう梅の花が殺風景な庭に色を添える。このろう梅をこよなく愛した前理事長は、年末になると、一枝一枝を大切に花ばさみで切り取り、知人宅へ正月の花にと配った。その届け先の中の一つに花野五壤画伯のアトリエがあった。画伯は華やかな花を好まず、野草や茶花をこよなく愛しておられた。ろう梅の花は画伯の感性とテクニックにより、芸術の世界の中でまた別のろう梅となり、キャンバスの上で美しく咲き誇っていた。寒さを感じて咲く花もとても美しいが、私の頭の中には寒さが美味しくする冬野菜が浮かぶ。
小雪の降る早朝、小松菜、白菜、ビタミン菜などはカチンカチンに凍りつき、朝日が輝き始める頃、柔らかい日射しで息を吹き返す。野菜たちは、不織布の下で自らの体の糖度を上げ、大寒の寒さから身を守る。一度霜にあたった野菜が甘いのは、この所以である。 凍った野菜を収穫していると、まず指先、指全体、手のひらの順に感覚が遠のき、15分もすると完全に感覚がなくなる。
大地は同じように凍りつくが、有機農法と化学農法の差は歴然と現れる。化学農法で育った作物は、一度凍った後に溶けると細胞が破壊され葉や茎が凍傷になり、その後ずるずるに腐ってしまう。ところが有機栽培ではほとんどが元に戻り、野菜が甘みを増し、美味しくいただくことが出来る。自然に基づく有機栽培では作物に自らを守る力が備わり、それをいただく人にも免疫力を高める力が備わる。食物は生命を維持する糧であり、生命力の低い作物を摂取することにより免疫力も低下する。これからのシーズンに広く蔓延するインフルエンザに耐えることが出来なくなるばかりか、化学農法の生育過程で使用される大量の農薬は肉体を蝕み、生命あるものを死へと追いやる。
完熟堆肥で育ったミネラル豊富な当会の無農薬野菜と適度な動物性タンパク質で免疫力を向上させ、この冬を健康に過ごしていただきたい。
農場も本格的に始動し始めた。前回紹介させていただいた大寒中の畑の耕運、そして圃場への堆肥散布、その作業のために運転するトラクターにはキャビンがなく吹きさらしで、強風や吹雪の日は凍えながらの作業となる。それに耐えるため、日々大量の食物を摂取して寒さから身を守る。・・と言ってはみたが、家人には「ただの太り過ぎのメタボ・・」とばっさり切り捨てられる。宮沢賢治ではないが、寒さにも負けない体を作り、その体力で土を起こし、これから始まるシーズンに向かって邁進する。多くの種類の生命を育て、そしてその生命をいただき、私達は大自然に生かされる。
2011年は生涯忘れられない年となった。未曽有の災害、そして原発の崩壊による放射能汚染が日本列島を飲み込んだ。全てを失い呆然と立ち尽くす人々、津波が町の飲みこんでゆく映像は今も目に焼き付き、まさに地獄絵図である。その中、自らの生命を投げ打って人々に避難を呼びかけ続けた南三陸町職員の遠藤未希さん、そして地元消防団の人々、この腐りきった世の中に於いて、その行動は光り輝く宝石のように感じられ、日本人の真の魂を見たように思う。
12月31日、除夜の鐘が五條の町に響き渡る。足を早め、菩提寺へと向かう。燃え盛る焚き火が鐘つきの順番を待つ人の足元から身を温めてくれる。一人、また一人合掌し、祈り、鐘をつく。私の番になりこの一年の感謝、そして一日も早く東北の地に平穏な日々が春と共に訪れるよう祈り、力強く鐘をつく。響き渡る鐘の音は漆黒の暗闇に響き渡る。その音は次第に天の声に変わり、優しく答えてくれたように感じた。
本年も微力ではあるが、耕人として迷うことなく作物を育て、大自然の力により自らをも精神共に大きく育てていただく。「画人は絵のみに命をかければよい」これは大画家 藤田嗣治の言葉である。耕人は耕すことのみに生命をささげる。雑事にも心揺らぐことなく。本年も会員の皆様が健康で平安に過ごせますように。また農場が皆さまの温かい心に支えられていることに感謝し、本年も初めの一歩を踏み出す。

 

 

寒さ厳しい農場より